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FILM MAKER TAKESHI IKEDA
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2003年11月28日(金) Il mio maestro

いつ以来だろう。
もう年の瀬も押し迫ってしまった。

今日の課題はとにかくカメラを手にしない事。
それは冒頭にもマルコに対して宣言した。
静かにじっくりと彼の仕事ぶりを観てみる事にした。

工房にはマルコと奥さんと弟子がいた。
マルコはヴァイオリン作り、奥さんはコントラバス磨き、
弟子はコントラバスの弦を引っ張るところをつくっていた。
僕はマルコの仕事を観ていた。

取引先のドイツ人らしき人物から電話がかかってきて、
英語を話す弟子とそのことでいろいろとやり取りをしていた。
ヴァイオリンをつくる手を何度となく止めていた。
僕も待ちぼうけを食らう事が多かった。

こと仕事に入ると、じっくりと観る事ができる。
と思いきや、BGMにのって「パッパラパッパラパー」と突然歌いだす。
奥さんと話しはじめて「僕の奥さんは今晩魚を食べる。いいかい?」とか、
(ON THE BOAT)のちらしを取り出して「ここに君のサインをしてくれ」とか、
「ここにサインしてくれ」
「またかい?」というと、今度は両手がふさがっているので、
彼の作品にマークを入れて欲しいというのである。
僕もマルコの作品に参加してしまった。

こういうところはやっぱりイタリア人なんだろうな。
秋葉原で買ったというデジカメを見せて、家族の写真を見せてもくれた。

仕事ぶりはどうか?
じっくりと見る度に彼の真剣な眼差しの多さに気がついた。
道具の単語も教えてくれた。
部品をトントン叩いて真剣に音を確認している瞬間の目は本物だった。
非常に丁寧に定規ではかって木を切ったり、印をつけたり、
そんな繊細のところがあれば、ホントにそれでいいんかい?
というくらい大胆にズバッ、ズバッと部品をカットしていったりしていた。

すべてが手作業で、図工の時間の図画工作室にいるようだった。
8才しか違わないからよけいに気のいいあんちゃんみたいな感じで、
弟子が「マエストロッ」と呼んでいるのに、あまり実感が湧かないのである。
ただそう呼ばれているという事は、僕もそう呼びたくなってくる。

僕の帰りの最終の電車の時間近くになってきたら、一番興味深い行程にさしかかってきた。
奥さんの手掛けていたコントラバスの仕上げである。
マルコ自ら楽器全体に磨きをかける。
男手でなくてはならないんだろう。
マルコの太い体と腕で力を入れて丁寧にゴシゴシと入念に磨いていく。

僕はこの瞬間をどうしても撮りたかった。
でも我慢した。
これが本当の職人の姿なんだと感じる事ができたからだ。
マルコはどこに誇りを持っているんだろう。
ここで手を抜いてもマルコの作品である事には変わりない。
でもここまで手を入れるものだからこその、マルコ作品なんだろうか?
プレイヤーへの捧げものか?
はたまた観客への気持ちか?
それともみてくれが気に入らなかっただけなのか?
形なのか心なのか?

製作行程自体を観る事ができたのも、すごく興味深かった。
どんなふうに木を曲げているかという事を知る事ができた。
それとともに作品に込める気持ちをじっと見つめて離さない、
マルコの視線を観ていたのに、その僕の視線などまったく感知しないその情熱に、僕はやられてしまった。

僕もいつかマルコの事を「マエストロ」と呼びたい。



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