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8年の変遷 : パルマハムについて思うこと


まず、簡単にパルマハムについて説明させていただきます。
その歴史は本当に古く、紀元前5世紀にはすでに生産され、
イタリア各地、ギリシャなどと交易があったという史実があるそうです。


1963年にそれまで各々が作っていたProsciutto Crudoに関し、
その伝統的製法に関する厳密な規定を定め、
パルマのProsciutto Crudo作りの名声を守ると共に、
他との区別をはかりその品質を保証するために23の業者が集まり (GALLONIも入っています)、
自主運営の民間団体「パルマハム協会」を設立しました。

これにより原産地、生産、加工法に関する一定の条件を守るProsciutto Crudoにのみ、
「Prosciutto di Parma(パルマハム)」と名づけることを決めたのでした。

1978年にはイタリア政府から、
パルマハムの品質保護規定の正しい運用に関する監視活動を行うことを、
民間団体でありながら認められることになりました。

それから規則が厳密、かつ明確に改法されていき、
完璧を期する協会の姿勢は1996年EUによって承認され、
パルマハムは原産地呼称保護(DOP)製品の指定を受けた、
最初の欧州生産物のひとつになりました。

パルマハムはその原料である豚、豚が食べる餌、豚を肥育する養豚場、
その豚を屠殺し、原料肉に分ける屠殺場、原料肉が運ばれ、
パルマハムへと加工する工場、すべてがパルマハム協会の監視下に置かれています。


原料肉が工場に着いたときにパルマハム協会で定められた規定を満たしているか、
全ての原料肉に関してチェックします。
原料肉には皮の部分に消えることのない特殊な入れ墨が入っており、
これによりどこの県のどこの養豚場で何月に生まれたものかすぐに判別できようになっています。

またどこの屠殺業者が屠殺したかわかるように焼印も入っています。
これらを全てチェックしたあとに包丁職人が整形をし、
その後に加工開始の年と月が入ったチップを取り付けます。

そして1年後に協会から認められたもののみに、
パルマというロゴの入った王冠マークの焼印が押されます。
この王冠マークがパルマハムの代名詞となりパルマハムの象徴ともいえると思います。
そのときに一緒に工場番号も焼き印されるのですが、
これにより製品になった後でも何か問題があったときに、
豚が生まれてから製品になるまでをたどることができるようになっています。


1963年にパルマハム協会が23社で創設されたとき、
その総生産数はおよそ13万本でした。
その後年々加盟企業数は増加し1985年には247社にのぼり、
総生産数は700万本を越えるようになりました。

1995年には加盟企業数は203社になり総生産数は810万本になりました。
そして2007年、加盟企業数167社、総生産数は950万本を超えるようになりました。
(参照:パルマハム協会ホームページ
ここまでについて詳しくはパルマハム協会のホームページをご覧ください)


私の職人仲間がまだ子供だったころ (30年以上前)、
各工場が窓を開けるため、この小さな町は芳香なプロシュートの香りであふれていたそうです。
全てが手作業で行われ、この地域の自然環境 (独特の風、温度、湿度など) と、
職人の長い経験からもたらされた技術が「Prosciutto di Parma」を産みだしていました。
技術の進歩、需要の増加に伴い年間を通じてプロシュートを生産するようになり、
その生産量は爆発的に増えるようになったのです。


しかしここにきてとても残念に思う流れが主流になりつつあります。
それは「大量生産」という流れです。
1995年に203社あったパルマハム会社が2007年には167社に減っているのに対し、
総生産数は810万本から950万本へと増えています。

この間、小さいながらもおいしいパルマハムを作っていた昔ながらの工場が、
いくつもつぶれたり、買収されたりしています。
以前はパルマハムのみを作る会社だけだったのが、
サラミやプロシュートコット (普通の加熱ハム) も作っているような、
大手のハム会社がパルマハム業界に参入してきたり、
こちらでは養豚業者が大きな力を持っているため、
彼らがプロシュート工場をも持つことにより安い経費で大量にパルマハムを作ることが可能になりました。


パルマハム協会で認定された原料肉といっても、
当然のことながらその質は全て一定ではなく値段にも差があります。
良い原料肉は値段が高く、質が下がるに伴い値段も下がります。
パルマハムは塩と自然環境+職人の経験で作るため、
原料肉の占めるその重要度は大変大きいと言えます。

おいしいパルマハムの条件を職人の間では原料肉の質が6割、
その後の自然環境、職人の経験などが4割と言われており、
この条件が交わって初めて最高のパルマハムが出来るのです。


多少の欠陥のある原料肉は値段もかなり安くなります。
出来た製品は圧縮パック用 (骨抜き専用) のみとし、
スライスパックとして売ることを前提にすれば、
パルマハムの見た目は一切関係なくなり、
また出来上がった製品に多少の欠陥があっても、
そこを切り落として後の部分をスライスパックにすれば、
充分に採算が取れる計算になります。
というのもスライスパックは手間がかかるため、
その単価がかなり高めになるためです。


見た目が関係ないということは整形も余分な肉を切り落とす程度にし、
多少の欠陥が出ても切り落とせばよいということになれば、
塩振りは原料肉によって振り分けることをせずに機械が一定量を振り落とし、
窓の開け閉めは行わず (窓さえない工場もあります)、
工場内は空調のみで管理され、
表面に塗る脂もピストルのようなもので噴射されます。

このような工場では熟練の職人たちは必要とされず、
極端な場合では責任者一人がイタリア人で、
あとは全て出稼ぎの外国人というところも増えてきてます。

手間ひまを掛けることによって本当においしいパルマハムが出来上がるはずが、
これを大幅に省くことにより安いパルマハムを大量に作ることが出来るのです。
パルマハム協会も王冠マークの焼印を押せば押すほど、
収入が増えるとなればこの流れに歯向かうのは難しいのでしょう。
これで本当においしいパルマハムが出来るのでしょうか・・・
そしてこのようなパルマハムが日本に大量に入ってきているのです。


これは私の個人的な考えですが、
現在あるパルマハム工場の中でも、
伝統的な作り方、技術にこだわり、本当においしいパルマハム工場のみが集まり、
パルマハム協会との別格化を図るべきだと思います。

同じパルマハム、同じ王冠マークでありながら、
値段、品質に大きな差があるというのは大きな問題だと思います。
10〜15ほどの工場が集まり、
例えばランギラーノハム (この小さな村の名前を取り) という名前にして、
最高のものだけを作る・・・素晴らしいことだと思うのですが・・・。





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